top of page

理想的な身体づくりへの私の助言・提案として…

 大学で学んだ運動生理学・解剖学を土台に、練馬区立健康増進センターで運動生理学の権威でいらした所長の下14年間公務員として働きながら得たもの、空手から得たもの怪我から得たもの、そして生活のほぼ全てをボディビルで勝つための生き方にした経験から得たもの。
・・・文字として表現するのは難しいのですが、私の所に身体づくりを学びに来て下さる人達に、基本のキの字として伝えていること等も含めて、コラム形式で2~3週間毎に少しずつ内容を変えながら紹介してみたいと思います。

コラム60  左右差軽減を目的としたストレッチング2(ストレッチ動作の支点を考える)

 前回のコラムでは、

「日頃の動きや姿勢のクセは、身体の左右それぞれに違った特有の筋の緊張を作り、骨盤や肩甲骨や肋骨の配置、膝蓋骨やつま先の向きなど、様々な部位に左右差を作り出している」

「このように部分的に筋が過緊張し、例えば骨盤に顕著な傾きが作られたまま左右同じように体側のストレッチをしようとしても、倒す支点自体が異なってくるため、本来弛ませるべき筋肉を弛ませるようなストレッチにはなっていないことがある」

「どういったクセがあるかを明確に認識し、そこに的確にアプローチするのは難しいので、まずは身体の各部位にクセがあるものと考えて、骨盤・肩甲骨・肋骨などを前額面・矢状面・水平面という基準面を意識しながら軽く動かし、その周辺の筋肉を解すような作業を“ストレッチを行う前段階のストレッチ”として行なっておくと、左右軽減を目的としたストレッチングに繋がりやすい」といった内容を書かせてもらいました。

 

 今回は、とても基本的なことではありますが、「ストレッチ時の動かしの支点」ついて。一般的なストレッチを行なう時に、ストレッチ動作の「支点となる部位」を左右揃える事を考えなければ、せっかく「ストレッチの前段階ストレッチ」で過緊張部位を緩める時間を設けても、左右対称の部位をストレッチすることはできません。

 

 ストレッチやトレーニング動作を行なうときに「動きの支点」が曖昧になり、左右で大きな違いが出てしまうのは体幹部かもしれません。

上肢(腕)や下肢(脚)での運動は、肘関節や膝関節などといった、明確な“関節”を支点に骨を動かすことができるので、関節の向きや関節角度の状況などを考慮する必要はあるものの「この位置から曲げよう」などと頭で考える必要がありません。

(肩関節については、支点となる関節が肩峰の外側・肩峰の内側・首の付け根に存在し、肩甲骨のポジション《挙上・下制・内転・外転・下方回旋・上方回旋・前傾・後傾、それらの組み合わさった状態》の考慮が必要となりますが)

 それに対して体幹部は、32~34個もの様々な形や機能を持った骨(椎骨)が連なってできた脊柱がS字を描いた支柱を作っています。そして更に、内臓を守る肋骨や骨盤、肋骨と肩甲骨の間で複雑な動きを作り出す肩甲胸郭関節などが存在します。関節が多く存在するのに加えて、椎骨間のそれぞれの関節が同じように動かせるわけではなく、各部位で動きの仕組みは異なってきます。上肢や下肢のように「ここを曲げる」「ここを伸ばす」といった目で捉えやすい動きとは違った、頭で認識する事がとても難しい動きになります。

 

 こうした複雑な体幹部(首も含めて)の動きについては、頭で「ここを支点に動かす」というような“操作のポイント”を自分自身で定めて、動作を頭で捉えながら行なうことが、動きの把握には必要不可欠な要素になってきます。

基本の動きに必要な“操作ポイント”の考え方について、いくつか例を挙げて説明してみたいと思います

頭頚部の動きの支点

 例えば頭を前に倒す動作でも、アゴを引いて倒せば首の上方(首の付け根側)に支点が、アゴを引かずに倒せば首の下方(肩の付け根側)に支点が移動します(図1)。「首を倒すストレッチ」一つでも、この違いによってストレッチされる筋肉に違いが生じます。

 これは前額面においても同じです。無意識に首を左右に倒すと、左は上方を支点に、右は下方を支点に倒す…といった左右で違った倒し方をする人が多くみられます。頭頚部については、「肩との付け根」「頭の付け根」という2つのポイントに絞って動きを考えてみると良いでしょう。

(図1)
頭頸部支点.jpg

体幹部の動きの支点(操作ポイント)

 体幹部の動きについても頭頸部と同様、動きを認識するための操作ポイント(支点)を設定すると、屈曲・伸展・側屈・回旋といった動きを、ある程度正確に把握しやすくなります。その支点になるポイントは、肩甲骨が存在する直下の“みぞおち”、骨盤の上にある“ヘソ”、体幹部vs下肢の関係として“大腿骨の上部から1/3の位置”の3点に絞って基本の支点としてみると動きの把握がかなりクリアになります。

(図2)体幹部の支点(操作点)
体幹部支点.png

【みぞおち(上半身操作点)】

まず椎骨間の動きに制限を作り得る肩甲骨から外れた肩甲骨の下部に位置する “みぞおち”(図2の①)を体幹の1つ目の操作ポイントと考える様にします。上半身のこのポイント支点に前後に折り曲げる動きを実際にやってみると、左右の肩甲骨が離れたり寄せられたりしますし、左右に折り曲げると肩甲骨が挙上下制の動きが伴う事が分かると思います。

 

【へそ(総合操作点)】

肋骨や骨盤が存在する部分は、動きの支点にしづらい部分ですので、この肋骨と骨盤の間に存在する “へそ”(図2の②)を体幹の2つ目の操作ポイントと考える様にします。ヘソ部分を後方に凹めたり前方に出したりする動きには、骨盤の動きが大きく関わっていることが分かると思います。

【大腿骨の上から1/3(下半身操作点)】

操作点はこの位置ですが、単純に「股関節」で考えても私は構わないと思います。股関節から倒す・捻るなどの動きでストレッチできる体幹の部位がありますから、この支点も体幹部の支点として含めます。

 

 簡単な例として、立位で側屈するストレッチで考えてみましょう。右に倒すときには“みぞおち”から、左には“ヘソ”から倒していれば、左右でストレッチされる筋肉に違いが出てきます。前額面だけではなく矢状面の動きも伴えば、片側は腹筋、もう片側は背筋が優位にストレッチされることになります。

「仰向けに寝て、膝を抱え込んで横に倒す」などといった回旋の動きについても同様です。どこを支点にして体を捻っているか?倒す支点が「上半身の操作点」なのか「総合操作点」なのか「下半身操作点」なのか、変化を付けることでストレッチされる体幹部の筋肉が変わります。「左右差軽減を目的」にストレッチするのであれば、こうした倒しの支点を左右で同じ位置に定める必要があるということです。

 ただ闇雲に倒す・捻るなどのストレッチ動作を行なうのではなく「動きの支点を何処に取り、どの方向に身体を動かすか?」を常に意識してみるようにしましょう。

身体づくりに関する 簡単なアドバイス 

動きの軸や支点を考えてトレーニングしよう

 身体を動かすときに何も考えずに動かすと、自分のクセがそのまま出た動かしやすい動きとなります。自分では左右対称の動きをしているつもりでも、全くもって非対称な動きとなることも多くあります。

スポーツなどについては動きのほとんどが左右非対称となりますから、そうした動きの中でもっともパフォーマンスを上げやすい動きを追求すべきですが、トレーニングを非対称な動きで行なってしまうと筋力の左右差を増大させて、それが痛みや怪我の原因を作り出す可能性もあります。

 これを防ぐために最低限意識してほしいのは動きの支点と方向。左右に身体を倒したり捻ったりするだけでも無意識に行なうとおおよそ左右バラバラな動きになります。体幹であれば動かす支点が「みぞおち」なのか「へそ」なのか、・・・支点の分かりやすい腕の曲げ伸ばしであっても、上腕をどの方向に向けて前腕をどの方向に向けながら上げているのか?など、常に意識しながら行なう事が大事です。

bottom of page